最も簡単で効果の高いDX人材の育成方法は2:8の学びと実践

多くの企業がDX人材の育成に苦心しています。

3年以上取り組んでいても半数以上の企業が目に見える成果を出せておらず、特に「知識はあるが実践力がない」という課題が浮き彫りとなっています。

本記事では、効果的なDX人材育成の秘訣として、20%の基礎学習と80%の実践にフォーカスを当てた新しいアプローチを提案します。

目次

DX人材育成の課題

2024年にガートナー(Gartner)によって行なわれた調査によると、3年以上DX人材育成に取り組んでいる企業の、実に53%が期待する成果を上げられていないことが明らかになりました。(円グラフ右側二つの要素20%と33%合計で53%)

出典:Gartnerのデジタル人材育成調査(2024年4月)

この数字の背景には、従来の企業研修が抱える3つの構造的な問題が存在します。

DX人材育成課題1

第一に、多くの企業が採用している「知識偏重型」の育成アプローチです。従業員の33%が知識のみを保有し、実践的なスキルを持ち合わせていない現状は、座学中心の研修プログラムの限界を如実に示しています。

デジタル技術やフレームワークの理解に重点を置きすぎるあまり、実際のビジネス現場で必要となる課題設定力や”問題解決能力、改善実装スキルの育成が疎かになっている事がわかります。

DX人材育成課題2

第二に、「部分最適化」の罠があります。多くの企業では、データサイエンスやAI、クラウドといった個別のテクノロジースキルの習得に注力しています。本来はこれらの知識を統合し、実際のビジネスプロセスにおける課題解決に結びつけるべきですが、その機会が大幅に限られています。

その結果、個々の技術は理解していても、それらを組み合わせて課題を解決したり、新しい価値を創造する能力が育っていないのです。

DX人材育成課題3

第三に、最も深刻な問題として「失敗を許容しない企業文化」が挙げられます。DXの本質は、デジタル技術を活用した業務プロセスやマネジメントプロセスの抜本的な変革による新たな価値の創造です。

しかし、多くの企業では失敗のリスクを過度に警戒するあまり、従業員がデジタル化を前提としたビジネスプロセスで業務を試す機会が制限されています。

これらの課題に直面している企業に共通するのは、「知識の習得」と「実践での活用」を一括りに考えてしまっているという事です。「学ぶ」事と「出来る」事の間には大きな溝がありますが、従来型の座学中心の育成プログラムでは、この溝を埋めることは困難です。

真に活躍できるDX人材の育成には、知識習得と実践の機会を効果的に組み合わせた、新しいアプローチが必要とされていると言えます。

知識だけでは解決できないデジタル化の現場

デジタル化を推進し、DXへと繋げようとしている現場に必要なのは、単にシステムを導入することやデジタルツールを活用する、というレベルを遙かに超えた高いスキルが求められます。

技術的な知識やスキルに加えて、業務プロセスの理解、組織全体を動かすマネジメント力や行動力、さらには新しいビジネス価値を創造する構想力が不可欠となります。このような複合的な能力は、座学だけでは習得できず、実践の場での経験を通じて初めて身につくものなのです。

それでは、デジタル化・DX推進の現場で求められる、スキルについて詳しく確認します。

1. ビジネスとテクノロジー知識を融合した包括的な視点

従来のIT部門では、与えられた要件に基づいてシステムを構築することが主な役割でした。しかし、DXを推進する現場では、ビジネスプロセスとその目的を理解した上で、最適なデジタル技術を選択し新しい価値を創造することが求められます。

例えば、ECサイトを構築する場合。単にECサイトを立ち上げ、付随するシステムを構築するだけでなく、顧客体験の設計から売上向上のための施策まで、包括的な視点が必要となります。

2. 既存業務プロセスの理解と再設計

デジタル化は単なる既存業務からデジタルへの業務の置き換えではありません。DXを前提としたデジタル化の現場では、既存の業務プロセスを深く理解し、デジタル技術を活用してそれらを根本から再設計する必要があります。

この過程では、プロジェクトを円滑に推進し計画から設計、導入まで行なうことはもちろんですが、部門間の利害関係の調整や、従業員の抵抗感への対応など、座学だけでは習得できない実践的なスキルが要求されます。

3. 変化する環境・市場・要件への対応

DXを前提としたデジタル化のプロジェクトでは、市場環境の変化や新技術の登場により、最適なデジタル技術やサービスの要件が変わります。

数ヶ月から数年前に座学で学んだ知識やフレームワークは、あくまでも基礎に過ぎません。実際の現場では、不確実性に対処しながら柔軟に計画を修正し、それを全体に周知して素早く実行に移す能力が不可欠です。

4. 組織的な合意形成

仮に技術的な知識があっても、それを施策として組織全体に展開し、実際の変革を実現することは、容易ではありません。

現場では、経営層への提案から別部門社員の巻き込みまで、様々なレベルでの合意形成が必要となります。この過程では、施策立案能力やコミュニケーション能力、リーダーシップ、組織間における合意形成を提案する能力など、実践を通じてしか身につかないスキルが重要となります。

5. 成果測定と継続的な改善

デジタル化によるプロセス変革の成否は、業績プロセスの改革によって削減された工数やコスト、売上の増加率などを通じた価値の創出によって判断されるのが一般的です。

DX化における現場以外でも同様ですが、特にDX戦略として行なわれるデジタル化においては、適切なKPIの設定からデータに基づく効果測定、改善施策の立案まで。一連の改善サイクルを何度も実施し、再設計したビジネスプロセスの精度を高める必要があります。

これらのスキルは、実際のプロジェクトを通じて、試行錯誤を重ねながら習得していくものです。

今回5つほどご紹介しましたが、これらのようにデジタル化・DX推進の現場で必要とされる能力は、単なる知識の集積では得られない事が分かります。

しっかりとDX化を戦略的に進めることの出来る人員を育てるのなら、実践の場での経験を通じて、状況に応じた判断力と実行力を養っていくことが不可欠です。

成功する育成の黄金比: 学び20%と実践80%

考えてみれば、これは当然のことだと言うことが分かると思います。

私たちは自転車の乗り方を、マニュアルを読んで覚えるわけではありません。基本的な乗り方を教わった後は、実際に何度もトライし、転びつつちょっぴり痛い思いをしながら習得していきます。そして無事に、自転車に乗れるようになりますよね?

DX人材の育成も同じ原理です。最低限必要な基礎知識(20%)を押さえた後は、実践の場で経験を積む(80%)ことで本物のスキルが身についていきます。

20%の基礎学習で必要なのは、以下の3つの視点だけです。

  1. DXの本質:なぜデジタル化が必要なのか
  2. 技術の可能性:どんなことができるのか
  3. 基本的な進め方:どう進めれば良いのか

これ以上の知識は、実践の中で必要に応じて学べば十分。むしろ、実践に入る前に必要以上の知識を詰め込むことは、かえって柔軟な発想や行動の妨げとなりかねません。

80%の実践では、現場で直面する様々な課題と向き合いながら、以下のような本質的な力が自然と身につくはずです。

  1. 課題発見力:現場の問題をデジタル技術で解決できる機会として捉える
  2. 解決策立案力:技術の特性を理解した上で、実現可能な施策を設計する
  3. 実行力:関係者を巻き込みながら、確実にプロジェクトを推進する
  4. 評価・改善力:成果を測定し、継続的な改善を行う

知識はもちろん重要です。しかし、DX人材の育成は「知識」よりも「実践経験」を重視すべきなのです。なぜなら、知識は調べれば分かりますが、実践の場でしか得られない暗黙知こそが、真のDX推進力の源泉となるからです。

机上の学習に時間をかけすぎるのは、まるで自転車の乗り方を教室で学び続けるようなものです。まずは基本を押さえ、あとは実践の中で成長していく。

その方が、はるかに効率的で効果的な人材育成が実現できるのです。

まとめ

DX人材の育成において最も重要なのは、知識の習得以上に実践での経験を重視することです。20%の基礎学習と80%の実践という黄金比を意識し、自社プロジェクトを活用しながら、必要に応じて外部の知見も取り入れる。

この実践的なアプローチこそが、真に活躍できるDX人材を育成する最短の道筋となります。

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