「忙しく働いているのに、思うように成果が出せない」。
このような悩みを抱える経営者やマネジメントは少なくないでしょう。
日々の業務に追われ、重要なタスクに十分な時間を割けないまま一日が終わってしまう。そんな状況から抜け出すためには、「忙しさ」と「成果が出せない」という本質を理解し、的確な対策を講じる必要があります。
本記事では、これまでに多くの業務プロセスの改善を行なってきたエキスパートの知見を基に、なぜ忙しく働いているのに成果が出せないのか?という本質に迫りました。
「忙しいのに成果が出せない」原因は本当に忙しさ?
多くの経営者やマネジメント管理職は「チームが忙しすぎて成果が出せない」と考えています。しかし、私の経験上も、実際のデータや事例を分析してみても、「忙しさ」と「成果が出せない」事は、意外にも直接的な因果関係はありません。
成果が出ないのは、本当に忙しいからなのか?
私が営業部門に在籍していたときの経験ですが、最も多くの新規契約を獲得している営業チームと、最も成約率の低いチームを比較したところ、業務時間や1日あたりの顧客接点数に大きな違いはありませんでした。むしろ、高い成果を上げているチームの方が、若干少ない労働時間で結果を出していました。
あなたの会社においても、細かく様々なチームを調べてみると、同じ様な現象は多々存在しているのではないでしょうか?
この現象の本質を理解するために、「忙しさ」と「成果が出ない」事をそれぞれ要素分解してみましょう。
まず、「忙しい」という状態には
- 日々の業務量が多い
- 緊急性が高い仕事が多い
- タスクの難易度が高く時間がかかる
- 次々と新しいタスクが発生する
- プロセスが非効率
- リソースが不足している
といった要素があります。
一方、「成果が出ない」状態とは
- 成果目標の不明確さ
- 品質、アウトプットの低下
- 生産性の不足
- スキル・能力不足
- 行動量不足
- コミュニケーション不足やズレ
- 改善、学習不足
という要素があります。
これらを並べてじっくり観察してみると、実は両者には相関している強い関係は、存在していない事が分かります。
例えば、成果を出すの意味が「売上を上げる」事であれば、その要因に最もストレートに関係する要素とは「決定権者へ数多く会い、クロージングをこなしていたか?」です。それはつまり「行動量不足」ですよね。
成果として求められる成約数は、クロージング数に対して「成約率」という変数によって導かれます。
ずぶの素人営業マンで、クロージングが出来ないのであれば、まずはクロージングにおける成約率を上げる活動をすべきですが、ここではある一定の成約率があるという前提で進めます。
もし決定権者に会えていないのなら、「決定権者に繋がる新規見込み顧客のリードやアポイントはどのくらい取れているのか?」が問題になるし、リードやアポイントが無いのであれば、それらを取得するためのマーケティング活動をどれだけ出来たのか?という点が問題になります。
そこまで掘り下げてやっと、「忙しくて時間が取れないので、リードやアポを作成するマーケティング活動ができない」という点で初めて「忙しさ」と交差するポイントが出てきます。
成果を出す為の行動を行なう
つまり、「成果が出ない」直接的原因は「忙しさ」ではなく、まずは「成果を出すための活動が十分に行えていない」事が原因となっている場合が多いという事です。
特に営業部においては、「売上を上げ利益の源泉を作る」という明確で定量的な目標があるにも関わらず、他の仕事が忙しくて顧客に会えていないのであれば、それはもう構造的な問題があるといえるでしょう。
今すぐ、「営業として行なうコア業務以外の仕事」の負担を減らし、営業活動に時間を投下出来るようにすべきです。
対してバックオフィス部門等は、経営者やマネジメントが意識的にKPIを設定し、定量的な目標に落とし込まなければ、どのゴールに向けて何をすべきかが明確にならず、迷子になりやすい部門といえます。
これらを把握すること無く、「成果が出ない=忙しいからだ」として結論づけてしまうことは組織の成長を阻害します。
そしてこの問題においてやっかいなところは、「忙しさ」を理由に本質的な課題への取り組みを、無意識に先送りにしてしまうことです。
日常というバイアスによって、認知が歪んでいるという事実にまずは気づくことが大切です。
成果を出すために必要な取り組みとは?
シンプルな答えになりますが、「成果を出す」為に行なうべき事は、
- 「成果に直結するための活動時間を増やす」
- 「成果へと繋がる一連のプロセスを改善する」
この二点だけです。
成果に直結していない施策やタスクをいくら一生懸命やったところで、仕事をやった気にはなれますが、決して成果にはなりません。
端的に「成果」とは、利益を創出し利益額・率を大きくすること。営業であれば売上を上げることだし、バックオフィスであれば顧客や社内にサービスを提供し、会社として質の高いサービスやアウトプットを提供できる体制を維持すること。いずれも低コストで。
成果とは「価値を創造する」という事ですから、価値創造に直結する施策に紐付くタスクを、まずは最優先で実する必要があります。
そのためには、成果に結びつかないタスクは何かをまずは色分けし、「優先順位付け」をするという事です。
優先順位を変えられないジレンマ
業務の優先順位を見直して、自らの「成果=価値創造」に多くの時間を投資すべきという考えは、ビジネスパーソンなら言われなくとも誰しもが当たり前に理解していることでしょう。
しかし、実際の企業組織では、この「当たり前」が実現できないジレンマがあります。
個人ではどうにもできない事がある
そのジレンマとは、企業という人間が集まった組織だからこそ存在する「見えない圧力」です。多くの会社の社員が「重要な価値創造活動よりも、組織内の政治的な活動や形式的な業務により多くの時間を費やしている」という事実がそれを物語っています。
私も会社員時代には沢山の同様の事例を経験したし、それは間違っていると解っていも、ただの一個人ではどうにも立ち向かえない壁である事も実感しました。社内の組織による「見えない圧力」は、個人の意識や努力だけでは解決できない、組織構造に根ざした問題です。
たとえば、週次の進捗会議のために、平均20ページ程度の詳細な報告書を作っていた時期があります。平均20ページですから、効率化を意識していたとはいえ、それなりの工数を割いて作っていました。
数字や具体的な状況を資料に纏めるため、チーム全体で毎週約15時間を費やしていたこのタスクは、本来、顧客対応や新規の案件獲得に充てられるべき時間を奪っていました。
「毎週こんなに時間をかけて週次報告書を作る必要なんてあるの?」と疑問には思っていましたが、過去から続く「前例踏襲」という名の下で、その必要性を問い直すことは出来ませんでした。
当時はまだ甘ちゃんだった私は、その悪習を組織の中で変える事が出来ず、無駄な週次報告書を毎週作っていたという苦い過去があります。
組織の中でうごめく、”見えない圧力”
その当時の自身の感情を紐解いてみると、以下のような「見えない圧力」の存在がありました。
- 評価への不安
- 重要度の低い依頼でも、断ることで評価に影響するのではという恐れ
- 目に見える短期的な業務を優先せざるを得ない評価システム
- 組織の同調圧力
- 「他の部署も全員やっている」という横並び意識
- 前例や慣習を疑問視することへの暗黙の抵抗
- 歪んだ重要度認識
- 上司の政治的意図に沿った業務が優先される現実
- 本質的な価値創造よりも、組織内での「立場」が優先される風土
こうした組織の構造に深く根付いている悪習的な環境や文化は、個人の意識改革やタスクの優先度を考えて効率化しろ、といくら声高に号令を発しても変える事は出来ません。
そもそもの論点が違うのです。
組織の中の各個人は、自らの業務を改善するための取り組みは既に十分行なっているはずです。個人の能力によって改善結果の差は有りますが、もう何年も改善を続けてきているはずで、これ以上いくら個人単位で効率化を図ったところで、大きな改善は期待出来ません。
そればかりか、顧客のためでは無く社内政治的意図に沿った仕事をさせられているということ位、現場の社員だって敏感に察知しています。
また、デジタル化してくれればものの数秒で終わるのに、デジタルに投資すること無く、アナログで前時代的なプロセスを会社が強要するから、無駄に手間を掛けているということも、社員は分かっています。
そんな現場に向けて、「業務を改善して効率化せよ」と言えば言うほど、「社員とマネジメント」の間の溝は深まるばかり。
当時サラリーマンだった私のように「いやいや、変えるべきはマネジメント側では?」と社員は心の中で呟いていることでしょう。
ジレンマの乗り越え方
では、どのような方法でその組織の構造的な問題、ジレンマを乗り越えるのか? その最も本質的な方法をお伝えします。
その方法とは、「業務はもちろんマネジメントプロセスや組織運営、制度をデジタル前提に切り替える」という事です。
現場社員では改善の範囲に限界がある
それは、たとえば組織内の役割や責任を再評価し、現状の目標に合った形で再定義することでもあるし、意思決定のスピードや精度を向上させるため、承認フローを簡略化し、権限移譲を進める事でもあります。
そもそもアナログ業務であるが故に、定量的な目標が無かったのであれば、業務をデジタルプロセスに置き換えた事でKPI目標を作れるようになるはずなので、個人の能力に合わせた目標設定をすればいい。
そうすれば、業務貢献度を定量的に評価することが出来、社員のモチベーションに繋げる事が出来ます。
デジタル化は業務プロセスだけで無く、制度面や組織文化、価値観を共有し、全社員が同じ方向を向くような環境を作るという事でもあります。
たとえば、「挑戦する文化」を促進するために失敗を許容する制度や、成功事例を表彰する仕組みを取り入れる事が、社員の成長機会を促進し離職率を減らすことに繋がります。
つまり何が言いたいかと言うと、行なうべきは「現場での改善」ではなく『組織としての変革』だという事です。
高度経済成長を支えてきた紙業務による業務プロセスにメールやエクセル、IT化といった改善を施してきた管理体制やマネジメント体制から決別し、デジタル前提の企業へと生まれ変わる必要がある、という事です。
それを成し得るために必要なのが変革であり、その結果得られるものがデジタルトランスフォーメーション(DX)です。
変革を進めるのは経営層でありマネジメント
最近流行のSaaSによって提供されるデジタルツールを導入して、業務プロセスをデジタル化するのは簡単です。
しかしそれはDXへの第一歩、デジタル化に過ぎないという事を自覚しなければなりません。
現場に与えられた権限で業務のプロセスを改善することは、現場で出来ます。しかし、社内の制度そのもの、運用の前提を変えることは現場の社員では出来ません。それが出来るのは経営者や経営層だけです。
「DXは現場任せでは失敗する、経営者がリードしなければならない」とよく言われていますが、その理由の本質はこれです。
>>>DXの本質は「破壊と想像」~経営者ならば「仕組み」を変えよう

変革する勇気が持てなかった場合の代償は大きい
今まさに動いている業務プロセスや組織、制度のスクラップ&ビルドを行なうわけですから、マネジメントサイドから見ればかなりの勇気が求められます。しかし、それを今やらねば、AIやデジタルが当たり前の世の中で、紙ベース・人ベースという旧来のコストと手間のかかるやり方で競合と戦わざるを得ません。
しかし、デジタルプロセスで武装した企業と競争したところで、戦闘力がまるで異なりますから、勝てるわけがありません。
その片鱗は既に出ていますよね。旧来の仕事の仕方をする会社はブラック企業だとかJTCだの呼ばれ、採用もままなりません。企業はコストを下げスマートにマネジメントを進める為に、制度を含めた変革が求められているのは既に明確です。
デジタルを活用することで、スマートな企業運営が実現出来る。それは既に判明していて、今は日本全体がその実行フェーズの途上です。
その間にもデジタル化した世界はどんどん進化していて、AIの進歩とともにデジタルによる産業革命レベルの変革が起き続けています。こんな時代において未だに紙ベースにデジタルをアドオンした業務プロセスでは、もはや価値を創造することは出来なくなりつつあります。
世の中のトレンドに逆らい続け、自分の好きな事にこだわるのは”趣味の世界”では良いでしょう。しかし、競争相手が存在するビジネスの世界においてはどだい無理な話です。まだデジタル化に踏み出せていない企業は、少しずつでもデジタル化への道を歩み出す事をおすすめします。
なぜならば、デジタル化による変革は一長一短にいかず、長期的な取り組みとなるからです。競争力を失いはじめた頃にはじめても、間に合わなくなる可能性が高い。
どうせやらなきゃいけないのなら、早くやってより良いポジション選択できる立場を作るべきだからです。
>>>中小企業のDXが進まない理由は人材不足では無い!本当の理由と対処方法

まとめ
「忙しいのに成果が出ない」という問題の背景には、単に忙しさだけではなく、優先順位の設定ミスや非効率な業務プロセス、不明確な目標設定など、根本的な課題が隠れています。
それらの問題は「企業組織における見えない圧力」によるもので、個人の努力だけでは解決できない課題がある一方で、組織としてのデジタル化をベースとした構造的な改革が進めば、「忙しさ」に振り回されることなく、本質的な成果を生み出す環境を構築することが可能です。
経営層のコミットメントと適切なデジタル化施策の実行が、組織全体の成果を最大化するカギです。
忙しい毎日ではありますが、価値ある成果を追求するために、ぜひ一歩を踏み出してみてください。