「デジタル化は進めているのに、なかなか成果が出ない…」——多くの中小企業経営者が直面するDXの壁。
実は、その突破口は案外シンプルなところにあります。本記事では、現場でのデジタル化の取り組みを確実に成功へと導くために、中小企業の経営層・マネジメント層が取り組むべき「たった一つのこと」について解説します。
中小企業の経営層が、DX成功の為に取り組むべきたった一つのこと
DXを成功に導くための本質的な取り組みは、実はシンプルです。それは「デジタル化に合わせて、会社の仕組みを変える決断をすること」です。
なぜこの決断が重要なのでしょうか?
今、多くの企業はDX化を推進するために、ITシステム・デジタルツール・AIの導入を行なっています。しかし、こうした最先端のテクノロジーを導入したとしても、古い仕組みや制度・ルールのまま組織運用を続けていては、期待する効果は出せないしDX化は果たせません。
例えば、営業部門にCRM/SFAシステムを導入しても、月次の営業会議では従来通り紙の報告書作成が求められ、経営会議用の資料もエクセルやパワーポイントを使って手作業で作成している——このような状況では、情報を取り纏め資料化するプロセスは単なる追加業務となり、負担は減りません。そしてリアルタイムのデータや、報告者の意志によってねじ曲げられていない率直なデータを元にした、データドリブンな意思決定を行なう事もできません。
これは、業務上のプロセスだけの話ではありません。デジタル化の効果を最大限に引き出すためには、承認プロセスの簡素化や、部門を超えたデータ活用の仕組み作り、成果やデジタルスキルを評価する人事制度の導入など、会社の仕組みそのものを変える必要があります。
現場では、一定の範囲の中で業務を改善することは出来ます。しかし、デジタル化された会社へと変貌する事を前提に、社内外の仕組みや制度・ルールを変革できるのは、経営・マネジメント層だけです。
つまり、DX化を果たすために経営層に求められているのは、「デジタル化のための投資の決断」ではなく、「デジタル時代に適した会社の仕組みづくり」なのです。この視点を持ち、必要な意思決定を行うことこそが、DX成功への近道となります。
デジタル化は目的ではなく手段です。その先にある、より効率的で創造的な働き方、そして『新しい価値創造の実現』する。そのために、経営層自らが会社の仕組みを変革し、デジタルネイティブな会社へと生まれ変わる。
これこそが、「デジタルを活用したトランスフォーメーション」であり、成功の鍵です。
>>>DXの本質は「破壊と想像」~経営者ならば「仕組み」を変えよう

なぜ「デジタル化」だけではDXは成功しないのか
「とりあえずペーパーレスしてデジタル化を進めよう」、「請求書発行ツールやRPA、AIを導入して業務を効率化しよう」
多くの経営層やマネジメント層が、DXをこのように捉えているのではないでしょうか?
確かに、業務のデジタル化はDXを推進するための、重要な一歩に間違いはありません。しかし、ここに大きな落とし穴があります。なぜなら、単なるデジタル化だけでは、企業の本質的な変革—トランスフォーメーション—は実現できないからです。
実際、デジタル化を進めた企業の多くが、期待したほどの成果を得られていません。その原因は、デジタル化と真の意味でのDXを混同していることにあります。
>>>BPRを伴わないツール導入は単なるデジタル化。DXではありません

「デジタル化=DX」と考えることの3つの問題点
デジタル化をDXであると混同している組織では、以下のような問題が生じます。あなたの会社でもこうした問題が起きていませんか?
- 表面的な業務効率化に留まる
- 紙の帳票をPDFに置き換えただけ
- 既存の業務プロセスをそのままデジタル化しただけ
- データは集まるが、業務視点でも経営視点でも活用されていない
- 部門単位の最適化で終わる
- 部門ごとに異なるシステムが導入される
- 部門毎にデータ連携が不十分で、マスタデータが散在
- 部門毎には改善されるものの、全社的な業務改革につながらない
- 投資対効果が見えない
- デジタルツールの導入コストが増加
- 小さく業務効率化は改善されるが、具体的な成果が出ない
- 処理方法の変更、運用の変更で現場の負担だけが増える
つまり、現在多くの企業で起きているのは、「デジタル化という手段」と「トランスフォーメーション=企業変革という目的」が切り離されてしまっている状況です。デジタルツールの導入が目的化し、それによって本来目指すべき”企業全体の変革”である「働き方、組織、ビジネスモデルの変革」、つまりトランスフォーメーションが置き去りにされているのです。
では、この状況を打破するために必要なものは何でしょうか。
従来の制度・ルールが抱える問題
現存するほとんどの企業では、メールやエクセル、ITシステムを使用してはいますが、業務プロセスや社内の仕組み・制度は、紙ベースの時代に作られたもので運用されています。
紙ベースの「紙」だった部分が「デジタル」に置き換わっているだけです。
それだけでも確かに効率化はされているはずですが、前提となるプロセスやフローは変わらず紙時代のままだったりします。
どれだけデジタル技術を導入したとしても、アナログ前提のプロセスや制度・ルールのままでは、デジタルの良さが活かしきれず、期待効果を得ることができません。
これが、DX化を失敗する大きな要因です。
たとえば以下のような状況は、中小企業においてはよく見られる課題です。
- エクセルへの手入力による数値取り纏めと管理
- 成果よりも口の上手い人が評価される人事評価
- 時間や場所に縛られた勤務規定
- 重要な判断には必ず対面での会議が必要
- 社内手続きには押印が必須
- 紙の保管が前提の文書管理規定
こうした課題が、過去から現在にかけて存在することそのものは、仕方が無いことです。
しかし、問題はそれら課題を放置し、目をそらして都合の良い部分だけをデジタル化しようとしている事。
デジタル化を進め、確実に利益率を大きくして経営の自由度をあげる為には、こうした問題を解消し真のDX化を推進しなければなりません。それには、業務プロセスはもちろん、制度や組織のルールをデジタル前提で作り替えることが必要になります。
現場主導による改善の限界
現場は確かに、デジタルツールの導入を実行したり、日々の活動の中で業務プロセスを改善し、効率化することはできます。しかし、その活動は一定の範囲内に限られていることを、忘れてはいけません。
なぜなら、現場には以下のような前提・制約があるからです。
- 現場には「権限」がありません
- 決裁の承認プロセスを変更できない
- デジタル化前提の人事評価の仕組みへと変更できない
- 大幅な工数削減によって発生する人員削減や異動
- 現場では「全体最適」を実現できません
- 部門間の業務の重複を解消できない
- 部門を超越したデータ活用を想定できない
- 取引先との商習慣を変更できない
- 現場では「経営資源」を動かせません
- 必要な人材の採用や育成計画を立てられない
- 予算の配分を決定できない
- 組織体制を見直せない
つまり、現場でできることには明確な限界があるのです。
たとえば、受発注システムそのものをデジタル化しても、顧客とのやり取りはメールで行ない、受注した数をシステムに入力しているのでは、エクセルで処理をしていた頃とあまり変わりません。
これでは、何のためにシステムを導入したのか分からないですよね。
このように、現場主導の改善だけでは、真の意味でのDXは実現できません。デジタル技術を活かすには、会社の仕組みそのものを変える必要があります。そして、それができるのは、制度やルールを変革する権限を持つ経営層だけなのです。
>>>「忙しいのに成果が出せない」- その根本的原因と改善方法

まとめ
本記事では、多くの中小企業でDXが成果に結びつかない本質的な原因と、その解決策について解説しました。
重要なポイントは、「デジタル化」と「DX」は異なるということです。デジタルツールの導入だけでは、真の企業変革は実現できません。なぜなら、古い仕組みや制度のまま新しい技術を導入しても、その効果を最大限に引き出すことはできないからです。
DX成功の鍵を握るのは経営層です。デジタル時代に適した承認プロセスや評価制度、データ活用の仕組みづくりなど、会社の仕組みそのものを変革する決断を行うこと。これこそが、中小企業のDXを成功に導く「たった一つのこと」なのです。
>>>中小企業のDX化を分かりやすく解説|やるべき事はたった一つしかなかった
